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岡山地方裁判所 平成3年(ワ)64号 判決

反訴原告

結石哲弘

反訴被告

八村優

主文

一  反訴被告は反訴原告に対し、金一六五万四六三二円及びこれに対する平成二年六月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告は反訴原告に対し、金四二八万六九五九円及びうち金三八八万六九五九円に対する平成二年六月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、本件交通事故により、損害を受けたと主張する反訴原告が反訴被告に対し、不法行為に基づき損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故(以下、 「本件事故」という。)の発生

日時 平成二年六月一七日午後四時二〇分ころ

場所 津山市小田中二二〇四―二先市道上

反訴原告車両 普通乗用自動車(岡山五九ふ八五二九)

反訴被告車両 普通乗用自動車(岡山五九ね四五四六)

事故態様 反訴被告車両が反訴原告車両に追突

2  本件事故は反訴被告の不注意に基づいて発生したものであるから、反訴被告に損害賠償の責任がある。

3  反訴原告は、反訴被告より、本件交通事故に関して合計金四六万円を受領した。

三  争点

1  給与の減額等について

(一) 反訴原告の主張

(1) 給与の減額 合計金 三三万七〇三二円

平成二年七月分 金一四万四〇三〇円

同年八月分 金一一万三八九三円

同年九月分 金四万二一三六円

同年一〇月分 金二万四一七三円

同年一一月分 金七三〇八円

同年一二月分 金五三九二円

(2) 賞与の減額 金一四万五〇〇〇円

(3) 慰謝料 金五〇万円

二  反訴被告の主張

反訴原告の人身損害については、証拠によれば、就業不能制限期間が二週間とされていることから、これに限定して休業損害及び慰藉料の認定がなされるべきである。また、残業手当の目減りは確定した損害とは言いがたいし、賞与減額についても明白な立証資料に欠けるというべきである。有給休暇分については、除外されるべきである。

2 物件損害

(一)  反訴原告の主張

(1) 本件交通事故は、反訴原告が反訴原告車両を新車で購入後約三か月後に起こつたものであるうえ、本件交通事故により反訴原告車両は、メンバーが破損し、いかなる修理によつても車体に歪みが残ることは避けられないことから、本件においては、三か月分の償却分を差し引いた残額を損害とすべきであり、物件損害としては、金三三六万四九二七円となる。

〈1〉 反訴原告車両の新車価格(特別仕様価格も含む。) 金三一一万〇三〇〇円

〈2〉 消費税 金一八万六七二〇円

〈3〉 自動車税外雑費 金二四万五〇〇八円

〈4〉 減価償却 金一七万七一〇一円

但し、耐用年数を五年として三か月分

(2) 仮に、新車購入が認められない場合には、修理費用等として、合計金二二七万五四六五円の損害を蒙つた。

〈1〉 修理費 金一二八万〇五八〇円

〈2〉 評価損 金四四万六〇〇〇円

〈3〉 中古車購入費 金一七万六八八五円

〈4〉 反訴原告車両の保管料及び駐車料金 金七万二〇〇〇円

〈5〉 慰謝料 金三〇万円

(二)  反訴被告の主張

(1) 一般に車の損害は所有車両の使用価値、交換価値を回復することにあり、これらは客観的な価値でなければならないところ、反訴原告の新車要求は主観的なものであり、また、修理代が車両価格を下回る場合には、修理代を限度とすべきであつて、これとともに評価損及び事故落ちで評価すれば足りる。

(2) 修理代については、金七五万七八六〇円が相当である。

(3) 評価損については、上限をとつても、金二二万七三五八円となる。

3 損害の填補(代車料)

(一)  反訴被告の主張

本件においては、反訴原告が反訴被告からの再三にわたる代車返還の要求に応ぜず、反訴被告が支払つた代車料は金四一万二五一五円にも及んだ。

本件の場合、修理相当期間の代車料は金五万一〇〇〇円とするのが相当であるから、差額三六万一五一五円については、反訴原告の損害の填補として処理されるべきである。

(二)  反訴原告の主張

本件において、反訴原告が反訴被告に対して新車要求をなしたのは相当であり、このための話し合い中、反訴原告が代車を利用したのにも相当の理由があつたのであるから、反訴被告主張のように代車料を反訴原告に負担させるのは、極めて非情である。

4 弁護士費用

(一)  反訴原告の主張 金四〇万円

(二)  反訴被告の主張 争う。

第三争点に対する判断

一  争点1(給与の減額等)について

1  証拠(甲5、6、14、乙6の2~4、8の2及び3、15の1、16、津山内田整形外科に対する調査嘱託の結果、反訴原告本人)によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 反訴原告は、本件事故により、頸部捻挫、右膝打撲の傷害を負い、平成二年六月一七日から同月二〇日まで、津山中央病院に通院し、更に、津山内田整形外科において、左外傷性頸肩腕症候群と診断され、平成二年六月二二日から同年一一月五日まで通院した。

(二) 反訴原告の左外傷性頸肩腕症候群の症状の程度は、軽度であり、これによる就業制限期間は、約二週間と診断され、約三か月で症状固定したと診断されている。

(三) 反訴原告は、勤務先を平成二年六月に一日、同年七月に一九日、同年八月に一一日、同年九月に一日それぞれ欠勤したが、それまでには月に残業を三〇時間程度しており、残業手当は一時間八〇〇円であつた。

(四) 反訴原告は、その勤務先から、平成二年一月から同年六月までの間に、給与として合計金九八万六九五二円、賞与として金二六万九〇〇〇円の支給を受けていたところ、同年七月、八月、九月に支給を受けた給与は、それぞれ金二万四六二円、金五万五九九円、金一二万二三五六円となり、同年一二月に支給された賞与も金一五万九〇〇〇円となつた。

2  右各事実を総合すると、反訴原告は、本件事故前六か月間に勤務先から一月あたり残業手当も含め平均金一六万四四九二円の給与を受け取つていたこと、本件事故による症状固定までに約三か月の加療を要したこと、反訴原告は欠勤日数も影響して平成二年一二月の賞与が大幅に減額されたことが認められる。

以上によれば、残業手当及び賞与額については不明確な点はあるものの、反訴原告が勤務先から支給を受けた平成二年七月から九月分の給与と右平均支給額金一六万四四九二円の差額合計金三〇万五九円及び賞与減額分のうち金五万円について、反訴原告は反訴被告に対して、本件事故に基づく損害賠償として請求できると認めるのが相当である。

更に、慰藉料については、1で認定した受傷の程度からすると、金三〇万円と認めるのが相当である。

3  そうすると、給与減額等の合計額は金六五万五九円となる。

二  争点2(物件損害)について

1  証拠(甲2、乙1の1ないし20、9、12~14、証人吉田英雄、同田中祝三)によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 反訴原告は、平成二年一月一六日、反訴原告車両を新車注文し、その代金は特別仕様を含め金三〇七万三〇〇円であつた。

(二) 反訴原告車両については、平成二年三月九日初年度登録され、本件事故までの走行距離は約六〇〇〇キロメートルであつた。

(三) 反訴原告車両は、いわゆるモノコツク型ボデイのスポーツタイプの車両であるところ、本件事故により玉突衝突の状態となり、後部から受けた衝撃により、リヤーパネルグループが変形し、これが更に、左右ルーフサイドインナーパネル、クオーターホイールハウス、リヤーフロアー、フロアーサイドメンバーに波及し、前部右側から受けた衝撃により、フロントパネルグループ右側が変形し、これが更に、ラジエターサポート、フロントフエンダーエプロンに波及するという大きな損傷を受けた。

(四) 反訴原告車両についての反訴原告の修理見積額が金一二八万五八〇円であるのに対し、反訴被告の修理見積額は金七五万七八六〇円となつているが、これは塗装箇所等の必要性について判断が異なることに基づくものである。

(五) モノコツク型ボデイの場合に、本件のようにメンバーまでが破損する状態となつた場合には、全体に歪みが生じるが、これを修正することは可能であり、修正を行えば、これによつて直ちに事故が発生するとまではいえない。

2  そこで、検討するに、まず、反訴原告は、本件事故に基づく物件損害として、新車相当額から減価償却額を差し引いた額の要求をしているが、1で認定した事実を総合すると、反訴原告車両は本件事故により大きな損傷を受けたものの、その修理は可能であること、反訴原告車両は本件事故までに初年度登録から三か月を経過し、その走行距離も六〇〇〇キロメートルに及んでいること、見積修理費は右要求額を遥かに下回ることが認められるのであつて、これらに照らすと、反訴原告の右要求については、これを認めることは相当でないというべきである。

3  次に、修理費用等について検討するに、前記1で認定した事実を総合すると、反訴原告車両は本件事故により大きな損傷を受けたこと、反訴原告車両は本件事故までに初年度登録から三か月しか経過していないこと、反訴原告車両が比較的高額のスポーツタイプの車両であることが認められのであつて、これらに照らすと、全塗装等を損害として認めるのが相当であり、修理費用としては、金一二八万五八〇円を、本件事故による評価損については、事故車ということによる価格の低下は避けられないと解されるところから、修理費用の二〇パーセントにあたる金二五万六一一六円を本件事故による損害とそれぞれ認めるのが相当である。

4  反訴原告は、修理費用及び評価損に加えて中古車購入費、反訴原告車両の保管料及び駐車料金並びに慰謝料を求めているが、物件損害としては、修理費用及び評価損ですでに評価され尽くしているから、中古車購入費、反訴原告車両の保管料及び駐車料金については、これらを請求できる理由はないというべきであり、また、本件において、物件損害に関し、慰謝料を認める特別な理由は認められない。

5  そうすると、物件損害に対する損害額としては、金一五三万六六九六円となる。

三  争点3(損害の填補)について

1  証拠(甲11~13、16~20)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 反訴被告と保険契約を締結している同和火災海上保険株式会社は、株式会社トヨタレンタリース岡山からレンタカーを借り受け、本件事故日である平成二年六月一七日から同年一〇月二四日まで、これを代車として、反訴原告に提供し、代金四一万二五一五円(内消費税金一万二〇一五円)を株式会社トヨタレンタリース岡山に支払つた。

(二) 本件事故に関しては、津山簡易裁判所において、平成二年八月一〇日を第一回として、調停が行われたが、当初から新車要求をする反訴原告側と反訴被告側とが対立し、結局調停は不成立に終わつた。

2  右事実によれば、反訴原告が反訴被告側から提供された代車を使用していた期間は一三〇日にも及び、この間調停による解決が図られたが、これが困難な状況であることが反訴原告においても、平成二年八月一〇日の時点で認識できたことが認められ、前記二の1で認定した反訴原告車両の損傷の程度から予想される修理相当期間も併せ考えると、代車料のうち、六〇日分については反訴被告側で負担するのが相当であるが、残七〇日分、金額にすると、金二二万二一二三円については、これを反訴原告で負担すべきであり、反訴被告はこれについて、損害の填補として主張できると認めるのが相当である。

四  争点4(弁護士費用)について

右一ないし三及び前記第二の二の3の事実によれば、本件事故に関し、反訴原告が反訴被告に請求できる損害額は合計金一五〇万四六三二円(650,059+1,536,696-222,123-460,000=1,504,632)となるところ、本件事案、審理の経過、認容額その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、反訴原告は反訴被告に対して、弁護士費用として、金一五万円を請求できるというべきであり、反訴原告の損害額は合計金一六五万四六三二円となる。

(裁判官 横溝邦彦)

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